intermission II

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原作軸(モブ影inイタリア)

・2020年1月、モブ影inイタリア(思い切り手を出します。描写なし)




 彼がバレーボールの選手だということは、常連客のマッテオに教えられた。
 そういうことは早めに、なんなら来店初日、僕が彼をカウンター席に案内するストロークの間にでも教えてくれたらよかったのに、彼は2か月ほど僕を泳がせ、反応を楽しもうと企んでいたらしい。

「背が高いなとは思ったんだよ」

 噂の男は本日、僕のトラットリアに姿を見せていない。聞くところによるとロードゲーム中で、週末までローマの街を離れているらしい。

「フェデリコの恋バナは、いつも学生時代のバレーボール女子・エリーザ一本やりだ」
「『甘く切ない』というと語弊のある、甘辛くも……救いのない失恋話だ。なんというか、あれはいいものだ。何度でも聞きたい」
「心優しい常連客を持って僕は幸せだよ、マルコ」
「それ以来、ローマいち黒のコックコートが似合うと噂のこの二枚目は女性とバレーボールがトラウマになっているらしいな?」
「そんなことはない。ただ女性は少し攻撃的なところがあり、バレーボールは退屈な側面を否定できない」
「30にもなって引きずり過ぎだと思うがな。こんなに美味しいアマトリチャーナを作れる男が、なんて情けないんだ」
「褒めているのかけなしているのか判断が難しいが、本日もご来店ありがとう、パオロ」

 出来立てのニョッキの皿を差し出しながら僕は心の中で誤報に訂正を加える。
 確かにエリーザの件があって、僕はバレーボールと聞くと脇腹が痛くなる特異体質になってしまったし、彼女を最後に女性と交際することはなくなった。しかし、それは恋バナの終わりではなかった。恋とはいいものだ。僕の人生は、少なくとも僕のつくるアマトリチャーナの尊厳を傷つけない程度に満ち足りている。要は相手が女性でなくなっただけのことだ。

「フェデリコは彼を何だと思ってたんだ? 恋人も連れずいつも一人でふらりとやって来る青年を」
「学生だよ。幼く見えたからな。今23らしいけど、正直もっと子どもに見えた」
「顔は確かに。でもあの体つき、どう考えても一般人じゃないだろ」
「まあ、言われてみればというヤツだ。かなり鍛えてるようだな。胸のあたりなんて特にすごい」
「どこを見てるんだ」
「体の話を先にしたのはマルコじゃないか、誘導尋問だ」

 話題の青年、トビオ・カゲヤマは、僕が人生で初めて出会ったプロのバレーボール選手だ。昨年の秋ごろ初めて店を訪れ、それから時折、頻度で言うと月に1、2回ほど姿を見せるようになった。
 物静かで、他の常連とつるむこともなく、淡々と食事をする。味はどうだと尋ねるとボーノと返ってくるが、どうも感情の起伏に乏しく、僕は彼に少し不満がある。イタリア語が得意ではないのだろう。それは分かるが、食事はもっと楽しくあるべきだ。

「バレーにあまり詳しくないんだけど、アリ・ローマって強いの?」
「おいおい、セリエAの盟主だよ。そこでトビオはレギュラー選手として活躍してる。言語のハンディキャップがあるのにすごいことだ」
「そうだったのか」
「マッテオに勧められて見たけど、フェデリコ、あれは一見の価値がある。バレーなんてよく知らないのに時間を忘れて見入ったよ。芸術的ですらあった」
「パオロ、それはさすがに誇張してないか?」
「繊細にして豪胆。毎試合クリッププレーを生み出すエンターテイナーだ。日本じゃ相当な人気らしいぞ、こうしてトラットリアで食事をするのもままならないとインタビューで話していた」
「そんなにか。難儀だな」

 こうして話題に出していると、不在の空席に彼の姿を幻視してしまいそうになる。彼はいつもカウンター席の左端に座った。体こそ立派に鍛え上げられているが、つり目がちな目元と寡黙な振る舞いが、猫シェルターでひっそり息をつく自由猫を思わせる青年だ。そんなに優秀な選手だったとは知らなかった。母国では食事も自由にできない環境にあるのは素直に同情する。

「もう少し話してみたいよな。バレーボール選手の知り合いなんていないし」
「人見知りってヤツなんじゃないか? 日本人には多いと聞くよ」
「そこを何とか、俺の話術で心を開いてもらおうじゃないか」
「お前二言目にはやれ胸がどうの、尻がどうのじゃないか。本当に話が膨らむのか?」
「万国共通の話題だろ。豊かな胸や尻に興味のない男がいるか? ああ、いたなフェデリコ」
「誤解だマッテオ。僕は興味と同時に品性を備えている。それだけのことだ」

 さらなる反論を受けるかと身構えたが、僕のこの主張は「それはまあ確かにそう」、と受け入れられ、肩すかしにあった気分だった。
 夜更け、日付のかわったころ、ネットニュースでアリ・ローマがその日勝利を収めたことを知った。トビオ・カゲヤマはフル出場を果たしたそうだが、それ以上の情報は得られなかった。



「チャオ……」

 カウンター席に面した一人きりの厨房に聞き慣れない声が聞こえて、鍋の前で雑誌をにらんでいた僕は驚き、スツールから立ち上がる。
 このトラットリアは、キッチンを囲むように2面のカウンター席がある。それ以外は4席ずつのテーブル席で、テーブル席があるのと反対側の角にドアがあるのだが、それが数センチほど開き、見知った青年が店内を覗き込んでいた。

「やあ。珍しいね、明るい時間に」
「だれもいない……」
「今日は休みだよ。新作メニューの開発のためにね」

 青年はもう少しだけ顔を見せ、「ぬおヴぉ、めぬ?」と僕の言葉を繰り返し、その意味を吟味した。

「あ……分かった。ごめんなさい」
「分かっていない。つまりサボりさ。中へどうぞ」
「え?」
「どうぞ。試作品のサルティン・ボッカがあるんだ。いつもの仔牛肉を豚肉に変えてみた。君の意見を聞かせてくれ」
「サルティン・ボッカ」
「セージの重ね焼きだ。分かる?」
「ん。すき」
「……それは知らなかった。さあ、どうぞ。そこに座るといい」
「本当にいいの」
「もちろん」
「ありがとう。オジャマシマス」
「何だい、それ?」

 定位置のカウンター席に腰を下ろしながら、青年は少し首を傾げてみせた。

「オジャマシマスは、……えっと」
「いいよ、ゆっくり」
「俺、ブロック、する」
「壁をする……?」
「壁じゃない、……disturb you, 壁、たとえ」
「なるほどね。つまりは人の家に入るときのあいさつで、あまり意味はない。そういうこと?」
「うん、そう」

 軽くうなずき、トビオはドア側の一面に張られた窓に目を向ける。
 腰くらいの高さまで木板の目隠しがあり、その上は細く区切った背の高い窓をはめ込んである。天井のあかりをつけなくても昼間は十分明るく、景色のよいローマの街並みを見渡すことができる。
 トビオは、チェスターコートの下は、黒のハイネックセーターに飾り気のない綿パンツという出で立ちだった。ステレオタイプな日本人のイメージに反し、体つきの立派さは変わらずで、肉厚な印象を受ける。
 ここに来るまでに1月の寒風に吹かれて癖がついたのだろうか、前髪の上がったトビオの顔は、普段物静かに食事をしているときより大人っぽく見えた。顔立ちは高校生未満、というイメージを持っていたが、こうして見ると案外年相応なのだと感じる。なめらかな肌に窓明かりの陰影が映えて、思っていた以上にきれいな顔をしているなと思った。

「チームでは英語なの?」
「英語が多い。……え? しってる?」
「君がバレーボールの選手であることを? そうだね。常連客から聞いた」
「そう」
「なぜ言わなかったの? 言えば、もっと……君はちやほやされたはずだ」
「……人気者になれるってこと?」
「そう」
「だいじょうぶ。なれなくていい」

 日本で受けていたらしいストレスのせいだろうな、と思いながら、僕は「どうして」と尋ねた。すると、思わぬ返事が返ってきた。

「だって、負けた日に気まずい」
「……っふ」

 鍋をかき混ぜる手を止めてしまう。にやりと口角が上がった。

「はは、なるほど。いいね」
「よくはない」
「いや、かなりいい。常連たちに、君に構いすぎないよう釘を刺しておく」
「……たすかる」

 寡黙な青年から人間味を感じてなんだか楽しくなる。
 意外と話せるじゃないか、華やかな洒落のきいた言葉の代わりの、嘘のないシンプルな言葉が小気味いい。

「どうぞ。サルティン・ボッカ~冷蔵庫の余りものをかき集めて~だ」
「ありがとう。冷蔵庫……なに?」
「新メニューをこしらえたわけじゃなくて、たまたま豚肉が残っていたという話」
「ああ。理解した」
「サルティン・ボッカは仔牛が旨い。豚肉派には賛同できない。日本にもそういうものはある?」
「材料が分かれる料理?」
「そう、時に激しい争いを生むような」
「争いはしないけど、たしかカレーは場所で違う」
「カレー……日本食か」
「カレーに関しては、俺は豚派」
「じゃあお口に合うかもな。どう?」
「おいしい。すごく。おすすめ」
「君が薦めるのか」
「ん」

 当然の顔をして、食べたほうがいい、とトビオは頷いた。

「この言葉、教えてもらった、使いたい。『バカうめえ』」
「誰に習った」
「チームメイトに」
「そうか。君はチームに馴染んでるんだな」
「なにか間違ってる?」
「合ってる。でもそれはローマの方言だ。君が言うと――」
「おかしい?」
「いや……なんというか。君のことを好きな人間が教えたんだろうな、と思うよ」
「……難しい」
「そうだな。言語の問題じゃなく、僕は今難しいことを言った」
「うん……」

 言ったとおり、きっとトビオはチームに馴染んでいて、彼に件のフレーズを教えた男はトビオにそれを言わせてご満悦だったことだろう、と思う。ちぐはぐさに可愛らしさを感じる口ぶりだった。

「もっとイタリア語を覚えるといい」
「必要は感じてる」
「君の言葉は今とてもたどたどしい。だから幼く感じる。流暢に話せるようになったら、君がどんな言葉遣いや言葉選びをする人か分かり、君を正しく理解できる気がする」
「勉強する。でも実は、俺日本語もいまいち」
「日本語が?」
「口が悪いし、バカっぽいって言われる」
「そうなのか? 気になるな。僕が日本語を学ぶほうが効率的かもしれない」
「俺のバカがばれる……」
「試しに、ののしり文句を言ってみて。日本語で」
「……あー……。ボゲ」
「ボゲ。他には」
「…………あーえっと。えー、ボゲ」
「ボゲ専門店なのか?」
「ない。ほんとに、知識。もっと頑張りたい」
「いや、それは頑張らなくてよさそうだ。……これもどうぞ」
「ウマソ。ありがとう。ニョッキも好き」
「この店で一番好きなのは何?」
「一番、難しい。いくつか近くのお店に行った。このトラットリアがどれも好きだった。全部おいしい」
「そう。嬉しいな」

 それから黙々と食を進めるトビオを見守った。彼への見方が変わったせいなのだろうか、食事を楽しむ心が不足していると感じていた青年なのに、実のところどんな感想を抱いて僕の料理を食べていたのか、翻訳機にかけたみたいに分かる気がしてくる。

「そういえば常連客たちが、君とどんな話なら盛り上がれるか考えていた」
「マッテオ、マルコ、パオロ?」
「そう。よく覚えているな」
「いつもいるから」
「うん。それで、君に女性の好みを尋ねたり、紹介したりしようとしていた。興味ある?」
「女性……」

 トビオはフォークを置いた。僕をまっすぐに見上げ、己の口元を指先で撫でながら、ふっと目を逸らす。顔を向けた窓がトビオの瞳に四角く光の影をつくる。

「……イタリアだと」
「うん」
「いいえと答えると、たいてい、どう思われる?」

 顔の右側と左側で、トビオは違う表情をつくった。慎重に答えを選ぶ深謀遠慮の表情と、痛みを誤魔化すような表情が混ざり合い、ひずむ。心臓がどくんと脈打つ。
 もしかして、彼は僕が想像するよりずっと成熟した人間なのではないか、と考える。

「……君の答えでいいよ」
「じゃあ、いいえ」
「そう。やはり、彼らを止めてよかった」
「止めた……。アザッス」
「君は――」
「フェデリコはそういう話、したい?」
「……興味がない。それよりトビオとピアットについて語るほうがきっと楽しい」
「俺もそのほうが楽しいと思う」
「君と、の部分が特に重要だ。友人になるのもいいし、もっと違うものでも、いいかもしれない」
「フェデリコ」

 トビオの視線がまた僕に戻ってくる。青く澄む瞳に魅入られる。

「『真剣なのか』って、先に聞くの得意じゃない」
「トビオ……」
「だから」

 青年は小さく肩を竦めて、ハイネックの下の、喉元のうすい肌を指先で撫でた。

「いいっスよ」

 それは流暢と言いかねるイタリア語だったけれど、ニュアンスは教えられなくても分かった。ほんの少し他人の距離感を残す、けれど甘い受容の言葉だ。
 僕はじわりと背に汗をかき、ここの2階は僕の家なんだ、と口走っていた。



 昼間の寝室の明るさに気後れした。それでもみすみすこの機会を逃すほど僕は大人にも子どもにもなれなかった。
 僕は不届き者で、小さなほこりの粒に窓の光が当たってきらきらと反射し、それを背に僕を見つめる一糸まとわぬ青年の姿を神々しく思いながら手で触れ、ベッドへ沈めることができる。

「トビオ」
「なに」
「君はどうしてこの国に来たの」

 肌寒そうに布団に潜り込むトビオの頭を撫でながら尋ねる。
 黒髪がしっとりと濡れたような色合いでシーツに散らばっていた。書棚の一部を切り取るようにして作りつけられたベッドは少し手狭で、けれど奥へ逃げるほど人目を避けることができる。

「いつも最先端で柔軟、機動的。イタリアのバレーが俺の中に欲しかった」
「パスタのことは気にならなかった?」
「あんま……。メシまずくても来たと思う」
「ああ、そう」
「でもこっち来てから、運がよかったって思うようになった」
「ご飯がおいしくて?」
「そう。いい店あってよかった」
「バックヤードに連れ込まれる店は、大体悪い店だよ」
「じゃあ俺は悪い客っすね」
「君、男を夢中にさせる特別な訓練を受けてる?」
「何スかそれ」
「魅力的だ。僕はきっと君のことを数パーセントも知らないのに、好きだという感情が無限に湧き出てくる」
「知らないことはねーと思うけど……」
「君のバレーボールも見たことがないし」
「え? ……っく、ふは、見てねえのかよ」
「見てない。心の底から申し訳ないと思う」
「じゃ、知らないスね。……ん、ほんと、どこ好きになったんだよあんた」
「今笑ってる顔とか、声とか、好きだよ」
「そっすか。すげぇ見てくる。恥ずかしい」
「バレーを見たことがないのは本当に申し訳ないけど、それ以外もとても魅力的だよ。バレー選手でなくとも好きになったと思う」
「……いや。多分、それはない」
「ない?」

 シーツの中で身じろぎし、トビオは何かに誓うように、自分の裸の胸に手を当てた。

「俺はバレーでできてる。バレーがなくなったら俺はいなくなる。俺はフェデリコのパスタを食べない。フェデリコは俺を見つけない」
「それは……きっと悲しい意味ではないんだね」
「ん。違う」
「試合見るよ、必ず。次はいつだい」
「日曜の夜。ホームだけど、来るのは難しそう」
「うん……店があるな。まずは中継を見よう」
「期待してて。バレーは面白いから」
「俄然楽しみになってきたよ」

 流し目を僕に寄越して、トビオが微笑む。この美しい青年が、人生のすべてを傾けるほどに夢中になったものなのだ。バレーボールが退屈なはずなどなかった。




「気でも触れたかフェデリコ」

 常連客3人組は、通い慣れた店の壁面に突如として現れた大きなモニターにあっけにとられた。

「テレビなんか買って!」
「しかも、バレーボールなんてつけて!」
「いったいどうしたんだ? もしかして知らぬ間に経営難に陥っていて、起死回生をかけてスポーツバーへ転向するのか?」
「まあ座れ、マッテオ、マルコ、パオロ。経営は順調だ。その証拠に、今日はワインを1本ごちそうしよう。みんなで気分よくアリ・ローマを応援しようじゃないか」
「フェデリコ! いったいどうしちまったんだ、正気に戻る前に栓を抜いてくれ」

 僕の突然の変節に戸惑う3人は額を寄せ合い、「気が触れた原因を尋ねるのはアーティチョークもタダになるか試してからにしよう」という結論に至ったようだが、めでたいことに僕は正気だし、アーティチョークはタダにならない。

「あー、失礼。アリ・ローマに関心が?」
「ある。バレーボールは刺激的なスポーツで、アリ・ローマは興味深いチームだ」
「昨日は少し冷えたからな。風邪には注意したい」
「確認だ。フェデリコの“推しメン”を教えてもらえるか?」
「無論トビオ・カゲヤマだ。我がトラットリアの常連客を応援しないわけにはいかない」
「信じられるか? ほんの半月前まで彼がバレーボール選手だってことも知らなかった男の台詞なんだぜ……」
「トビオはまさに、バレーボールをするために生まれてきたような男だ」
「彼にはもっと料理を楽しんでほしいね、という30代男性の意見についてどう考える?」
「まったく観察力に欠けるとしか言いようがない。表情によく注意を払えば彼の料理への感想は分かり過ぎるほど分かる。僕は彼の食の好みを熟知しているといっても過言ではない」
「あー、恐らくだが、過言だろうな」

 牛ほほ肉の軟らかくほどけたヴァチナーラ・ソースをショートパスタにかける間に、定刻になった。
 画面の中で選手たちがネットを挟んで向き合い、険しい表情で腰を落とす中を、ゆったりと横切る影がある。
 青毛の名馬が悠然と差し歩むように、一挙手一投足に注がれる熱視線を気負いもなく身にまとって、年若い異国の青年は歩を進める。
 サーブはアリ・ローマ。トビオが戦いの嚆矢を担う。

「――やあ、うつくしいな」

 どこからともなく声が聞こえた。僕は返事の代わりに固唾を呑んだ。
 トビオがくいと顎先を上げる。
 その一瞬に、世界が支配された。
 ああ、うつくしいよ。だって彼は本当に、このためだけに生きている。

 ボールが抉り込むようにフロアの白線に突き刺さった。街の小さなリストランテで、割れるような歓声が上がる。仲間と抱き合う青年に拍手を送りながら、僕もまた、彼への賞賛を口にする。
 次に彼が店を訪れたら、僕はどんな料理でもてなそう。それを考えるだけで世界は紙吹雪を散らしたように色づき、まばゆく輝き始めるのだから、まったく僕の人生はすばらしい。