intermission II

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You●uberパラレル(3)日影、やや月影

・ゲーム配信者パラレル、日影、やや月影
・<[]:>=配信のチャット欄です


3)

「なあ影山、どうしてもダメ?」
「だめ」
「どうしてもどうしてもダメ!?」
「だめだっつってんだろ。パーティー解散すんぞ」
「ひいっ! それは勘弁!」

 ランク戦と並行しての、粘り強い――もとい、しつこい交渉は難航どころか座礁していた。それも極めて早々に。DMで送った「公式イベント出ない?」というメッセージには「出ない」と一言、本日ランク戦前に再度口頭で切り出すもにべもなくお断りされてしまった。時間になったのでしかたなくゲームを始め、隙を見て交渉を継続しているが、さっきからまるで取り付く島もない。

「東京来られないとか、その日予定があるとかじゃないんだろ?」
「……違うけど」
「単純に顔出ししたくないって話なんだよな!?」
「別に、珍しい話でもねーだろ。お前みたいに配信で食ってるわけじゃねーんだし」
「いやっ、分かるけどさぁ。でもほら、マスクでもいいって話だし、イベントいろんな人来て楽しーぞ!」
「嫌だ」
<[****]500円:素直に会いたいって言えば?>

 スーパーチャットによる冷静なツッコミが入り、日向はぎくりと肩をすくめた。

「なんか聞こえた」
「気にしないで。マジ気にしないで」

 日向としても、影山が学生の身分ならもっと勧誘を自制しただろう。顔出し出演することで、将来就職に差し支えないとも限らないし、個人情報にかかるリスクには慎重にあらねばと思う。しかし影山は社会人で、自営業だ。顔を出すかどうか、少なくとも自分で選べる立場にある。それならば、もしかするととつい期待してしまうのだ。

「スパチャありがと、ちょっと静かにしててくんね!?」

 影山との通話を一時ミュートにして配信で返事をすると、ここぞとばかりにわらわらとコメントが寄せられる。

<[****]:ゴリ押しすぎん?>
<[****]:配慮の鬼がどうした。らしくない>
<[****]:そんなに会いたいの?>
「いやそういうんじゃなく! そのー、ほら、顔出しすると、ほんとできること増えるしさ。楽しいじゃん」
<[****]:正直になれよ>
<[****]:私利私欲100で草>
「違うって……違わんか! 違わないかもしれない。でももうちょっとだけ……運営さんも困ってることだし」
「おいボゲ日向、マッチしたぞ! クソしてんのか!?」
「きったな! 影山くんきったな! ちょっとミュートにしてただけですぅ!」
「ケツ拭いたかよ」
「だからトイレ行ってねーの!」

 マッチングが完了し、二人はコートサイドに進む。今夜も引きが強いようで、日向のチームは影山のほか、ツッキー、グッチーが残りの2枠を埋めていた。

「よくマッチすんなー、この二人」
「月なんとかのほう、たぶん性格悪い」
「ええー!? いきなり何言ってんのお前! 性格悪いぞ!」
「うるせェ知るか」
「まあ俺も試合前に話しかけてガン無視されたことあるけどさー」
「コイツ、画面の向こうで絶対あざ笑ってやがる。ブロックの出し方くっそヤらしい」
「あ、そういう意味!? ずりーぞ!!」
<[****]2300円:たすかる>
「おい影山! お前の『ヤらしい』発言でお金もらっちゃった!」
「はあ? 何の話」
「スパチャだよスパチャ! そーいや俺、影山の神プレーで勝った試合でも結構スパチャもらっちゃってんだよな。影山に晩メシくらいおごるべきだと思う! ちょっとお高めの!」
<[****]2000円:頼んだ>
<[****]4000円:行ってきて>
「かなりお高めの!」
「おごらなくていい。会わねーし」
「フンヌゥ……! なーマジで影山は顔出しの何が嫌なの? 同級生にバレたくないとか?」
「しつけーな。そういうのじゃない」
「じゃあなんで?」

 ゲーム前のストレッチを終えたアバターが、暗転後、フィールドに落下していく。着地姿勢を調節しながら日向が尋ねると、ふっつりと返事がやんだ。しつこすぎただろうかとにわかに後悔し始めたとき、薄墨を刷くような、ひっそりとした声がヘッドホン越しに聞こえた。

「めが」
「メガ?」
「目つき、悪いって言われる。から、嫌だ」
「えっ」

 スマホを取り落とすのではないかと思った。自撮り映像を垂れ流しにしている配信画面の中で、文字どおり日向は固まった。

<[****]1000円:尊死>

 日向の状態を実況解説するがごとく、読み上げソフトが口を利いた。

「か、か」
「なんだよ」
「かわ……」
「ア!? おい、レセプ! お前の位置から南東10メートル!」
「うわあああああぁぁあぁあああぁああああああ!」
「急になんだお前!? おい、ボール見えてねえのか!?」
「バカ! バカ! 影山のバーカ!」
「テメっ、試合集中しろボゲ!」
「責任取れよこれもー!!」
「何のだよ!」

 暴走列車と化した日向は奇声を上げながらフィールドを駆け回り、普段に輪をかけて無軌道なポジショニングでアタックに挑み続けた。影山はもちろんのこと、同席した「ツッキー」「グッチー」もフォローに追われることとなり、それぞれに愚痴を言い募っては右往左往しているうちに、どうしたことか日本代表も務めるフルVCチームに奇跡の勝利を遂げていたのだった。



 2時間のランク戦を終えるころには、日向も影山も息が上がるほどに疲弊しており、最終戦のリザルト画面を映したまま、しばし放送事故を疑われるほど黙りこくった。

「お前……、合わせてるこっちの身にもなれ……!」

 しばらくして、寝そべっているのだろうか、少しくぐもった低い声がヘッドセットの向こうから聞こえてきた。

「ご、ごめん。でもなんか、ちょー可能性感じなかった?」
「感じねえ……」
「え、そ、そう? よかったのにな今日……このあと他ゲーはできそうにないけども」

 パーティーメンバーのフォローに大いに支えられての戦果なので単純な比較はできないものの、日向は本日ゾーンに入っていたような、ニュータイプに目覚めたような、不思議な没入状態にあり、「結果として」ではあるが、勝利を引き寄せるいいムーブができたような気がするのだ。
 やはり、影山と組むと日向はすこぶる調子がいい。

「なーあ、影山」

 日向は息を整え、頭の中を整理して、改めて切り出した。

「出ねえから」
「うっ……じゃあうん、分かった。イベント出演は諦めるからさ、一般参加で来ない? ゴールドランカー優先招待枠ってのがあるんだけど、応募少ないらしいんだよね」
「なんのために」
「いや、ワルバリのイベントだぞ! 絶対楽しいじゃん!」
「はあ……」
「え、響け!? まず来よ? 会場来よ! そんで、あの……アフターしたいんですけど」
「……は?」
「だからつまり、その……俺とだけ、会いませんか」
「……はァ?」
「『はァ?』じゃないでしょーが影山くぅん! 俺のこの真摯な! 超絶真摯な申し出に『はァ?』はないだろ!! もっと驚け! ワンチャンときめけ!」
「お前、人の話聞いてねーだろ」
「ハイ!? 聞いてますが!?」
「行きたくねぇ理由言っただろ」
「そりゃっ、いや、俺は目つきとか気になんない! 全然、絶対大丈夫! 俺を信じろ!」
「やだ」
「やだじゃない。影山俺の配信見られる!? 俺の目ぇ見て! ぜーったい嘘ついてねーから」
「見てるけど……」
「見てんの!? おーい! 影山おーい!」
「……うるせえ。声うるせえのに顔もうるせえ」
「言い方キッツいなお前ほんと!! びっくりするわ!」
「懲りとけ」
「懲りない。なあ、もう出会い厨って言われてもいいや。……俺影山に会いたい。そんだけ。ダメですか!」

 影山が息を詰めるような間があった。これはもしかして迷っているのか? と、日向の胸は期待に膨らむ。空気を読んでか棒読み先生も黙っている。やがて、謎に高性能なマイクが、影山の小さなリップノイズを拾った。

「かげや……」
「外れたら、そんときゃ知らねーからな」
「う……っそ、マジ!? ……マジ!? うそうそうそ、よっしゃ! ハイ今すぐエントリー!」
「ゲ、今かよ」
「ホーム画面から申し込みできるから! 左上のアイコン、ボタンポチってするだけ! 送った?」
<[****]240円:必死で草>
「おくった」
「よっしゃー! 影山苦手な食べものとかある? あ、スパチャありがと!」
「まだ当たってねえんだよ」
「いや多分当たると思う。そんな気がする」
「お前やべーやつだな」
「え、なんで? ……ってぅおおおお!」
「今度は何だよ」
「かかかか影山!」

 日向はゲーミングチェアの上でひっくり返りそうになり、数回スマホをお手玉したのち、驚愕のサブディスプレイをのぞき込んだ。

「フ、フレ申来た」
「フレンド申請? そりゃ来んだろお前配信してんだから」
「ちがう、ゲームじゃなくてボイチャのほう! 『ツッキー』から!」
「……は? 性悪ブロッカーの?」
「うん。……いや『うん』って言っちゃった! あのな影山、多分だけどこれ、あー多分配信見てますねぇ! ツッキーは? あツッキーも配信してますねえ!」
「ブロックしとけば?」
「いやいやいや、しないだろ。承認しちゃうんだよ、俺配信者だから」
「何なのお前」
「あ、電話かかってきた! ヤバい影山、ちょ、待機! そこで待機」
「なんで」
「このタイミングだぞ。お前にも用があると考えるのが自然!」
「めんどくせ。通話切って2窓する」
「2窓するんかい! 待って、いったん切ってグループ通話に誘う」
「はあ? なんで……おい」

 かかってきた電話を切り、「ツッキー」の舌打ちの幻聴を聞きながら、日向はグループ通話をかけた。先に影山がオンになって、10秒ほどののち「ツッキー」が通話に現れる。

「こ、こんばんはぁー……日向翔陽と申しますー……」
「どうもぉ、こんばんは。性悪ブロッカーです!」
「ひいいい!! 影山っ、おい、影山! 聞かれてたぞ!」

 マイク越しに、柔らかくトゲのある声が聞こえてきて、日向は背筋を伸ばして縮み上がった。配信や動画を見たことがあるが、やはり「ツッキー」も一聴したら忘れられない、繊細ないい声をしている。悔しいことに。

「な、なんのご用でございましょか……?」
「もう我慢の限界なんだけど。何? 今日のプレー。傲慢にもほどがあるでショ」
「ちょちょちょ、あの、オブラートに包んでいただきたく! そちらも配信中であらしゃいますよね!?」
「してるけど?」
「あ、そうですか、ハイ! ではお互いのため、柔らかく、柔らかくいかがでしょう!」
「『ツッキー』テメェ3回目のマッチのとき囮サボっただろ! 入れよ全部」
「影山くぅん!」
「はあ? ほんっと君もさぁ、その王様みたいなプレーどうにかなんないわけ? 座標指定とかテキストチャットとかも庶民見下してますって感じでムカつく。っていうかツッキーとか気安く呼ばないで」
「お前ツッキーじゃねえのかよ」
「あああああお願いですお願いです、通報されて収益剥奪されませんように!」
「ツッキーのユーチューバのチャンネル登録名は『月島蛍』だよ!」
「ん!? 今の声、グッチーいた!?」
「山口うるさい」
「グッチーってやまぐっちーだったんだ!?」
「一緒にいんのかお前ら」
「うん、リアルの友達だからね」
「てか二人とも名前いいの、それ」
「別に。僕も山口も、春からeスポーツの実況者として普通に顔出しするから」
「え、すげ!」
「それはすげーな」

 影山がイベント参加を受け入れたあたりから、すでに目で追えないほどチャット欄は加速していたが、ここにきていよいよ処理が追いつかなくなってカクつき始めた。突発コラボに視聴人数はどんどん増し、今月いちの同時接続を記録しそうな勢いだ。

「そういえば、月島も山口も今度のイベント出るんだっけ」
「うん、そうだよ。日向は知ってたけど、影山も出るんだ」
「はあ? 最悪なんですけど」
「絶対行かねえ」
「うわぁああやめろ! 影山はイベントには出ねーの。一般参加なの! マジで変ないじりやめて」
「君らさ、単体でもタチ悪かったのに、二人で組むとほんっとありえないんですけど。もっと周りに気を遣ってゲームできないわけ?」
「うるせぇ。試合には勝ってんじゃねーか」
「そ、そーだそーだ! 日向影山キャリーだぞ! なんちゃって」
「……君、イベントでボコボコにしてあげるね」
「待て待てい! 俺ら同じ『人気者』チームですよ!」
「知ったことじゃないんだけど」
「運営さあん! 俺背後から撃たれそうです!」

 なぜこの界隈はこう放言が多いのか、自称クリーン系配信者の日向としては気が気ではないが、幸いにもチャット欄は4人の会話を高校生男子の部室での口喧嘩のような、プロレス系エンタメとして捉えてくれているようだった。まったくありがたすぎて頭が上がらない。

「今日ちょーっとイキりプレーだったのは認めるけどさ、月島最初から俺に冷たくなかった? 第一印象から決めてました、みたいなさ」

 前々からの疑問を口にすると、月島はフン、と鼻を鳴らして「気に食わないから」と一言言い捨てた。

「な、なにが」
「君のセンスが!」
「え、何の!? ワルバリの?」
「あー、日向。日向ってさ、たまに配信で晩酌してるだろ」

 説明不足のまま口をつぐんでしまった月島に代わり、山口が補足に入ってくれる。

「え? うん、たまーにだけど」
「使ってる白い酒器あるじゃん。そばちょこくらいのサイズの」
「あーはいはい、俺のお気に入りの晩酌セット。これだろ?」
「あ、うんそうそう。そのカップ、知ってる? 『蛍手』っていう技法が使われててさ」
「ほたるで? へー、この穴みたいなヤツ?」
「そんなことも知らないの? 信じられない」
「うるさいな!」
「透かし彫りみたいになってるじゃん。穴が開いてて、透明な釉薬がかかってんの。それを蛍手っていうんだよね」
「へえ、これ穴から光が透けてちょーきれいなんだよな! たまたま入ったカフェの中に陶磁器ショップがあってさ、一目惚れして買っちゃった。それがどうかした?」

 日向はカップを明かりに透かして目を細めた。今は配信中なので白いシーリングライトをつけているが、寝る前に間接照明の中でこの酒器を傾ける晩酌は格別だ。酒の水面に幾重にも光の輪が重なる様が美しく、心がしっとりと癒やされる。

「俺も蛍手のカップをツッキーの誕生日にあげたことがあって……ほら、名前が『蛍』だし。それで、ツッキーすごく気に入ってくれたんだけど、どうやら日向のも同じ陶芸作家の作品みたいなんだよね」
「え、マジ?」
「なんで君がそれを持ってるわけ? ほんと腹立つ。しかもその波紋のデザイン、ネットに出回らなくて買えなかったやつ」
「え、そーなの? へぇー、いい買い物したなぁ」
「腹立つ!」
「ねえおかしくね!? 趣味が合うってことで、むしろ好意を抱くポイントじゃねーかなそれ!」
「君みたいなパッパラパーなプレーするヤツが烏野窯の酒器使ってるのムカつく」
「直球でひでぇー!」
「その工房、動画も公開してて、ツッキーチャンネル登録して家で流してるくらい惚れ込んでるんだよ」
「ガチ勢じゃん!」
「それは、暖炉の動画とかと一緒で、BGMとして流してるだけ。ろくろの音とか、窯で薪が燃える音とか、ASMRみたいな感じでちょうどいいの」
「そーなの? 見てみよ。あ、出た出たこれか」
「チョット! 見ないでよ君は」
「なんでだよ! 減るもんじゃあるまいし」
「減るんだよ」
「減らないだろ。おお、先人が5万人もいる」

 「烏野窯」で検索すると、該当のチャンネルがすぐに出てきた。サムネは飾り気がなく、動画タイトルも、素人にはあまりなじみのない陶芸の工程名が日付とともに記されているだけだが、チャンネル登録は5万人もいて、30分から1時間近い動画ばかりなのに、数十万再生に達しているものもちらほらある。

「これ作家さん顔出ししてるの?」
「いや、映んないよ。後ろ姿とか、手元くらいかな」
「へー、余計気になるな。ほんとだちらちら映る。手ぇきれいだなぁ」
「ほんっと見ないで」
「なんでだよ、いいじゃん! って、あれ? そういえば影山いる?」

 月島との言い争いに夢中になっていた日向は、ふと我に返ってボイスチャットのメンバー欄を見やった。さっきからすっかりだんまりだったが、一応まだ影山もいたようで、ほっと胸を撫で下ろした。

「影山同業者だもんな。この窯元知ってる?」
「は? 同業者?」
「うん。本業陶芸家なんだって」
「ナニソレ……」
「すげーよな。おーい影山聞いてる?」

 日向の呼びかけに、影山は答えない。しかしオンラインである。トイレにでも行ったのかと思ったが、かすかな吐息が聞こえ、まだそこにいるのが分かる。

「どったの?」
「お前ら、そろいもそろって」
「え、何?」
「なんで俺の焼いたうつわ使ってんだよ」
「……へ?」
「は……? まさか」
「その広口の盃、俺が焼いた。窯から直接買い付けでショップにおろしたやつだ」
「え、マジ!? 俺影山の作品で晩酌してたの!?」
「嘘でしょ。信じない。嘘でしょ!」
「本当だっての。日向が見てる動画に映ってんのも俺」
「……あー! それで高性能マイク持ってたのか!」
「ちょっと、王様! 本当に君が焼いたの!? 僕が持ってるゴブレットも?」
「王様じゃねえ。ゴブレットあんま作ってねーんだよな。天の川のか?」
「そ、そう……これ本当に天の川だったんだ……じゃない、このっ、嘘でしょ!」
「なんかすごく運命的な出会いが起きちゃったっぽいね、今夜」

 山口がしみじみと呟き、日向もこくこくとうなずいた。
 日向もそれなりに驚いてはいるが、月島の受けた衝撃はその比ではなかったようだ。

「お買い上げどうも」
「くっ……!!」
「あ、影山これイベント配信者枠で出られるんじゃね? ゲーム配信しねーの?」
「イベントには出ねえっつってんだろ。ゲーム配信もしない。PCスペックもねえし」
「ちょっと君、絶対来てよ、イベント」
「なんでだよ。行きたくなくなってんだよこっちは」
「え、ダメダメ! 影山来てくんなきゃ嫌でーす!」
「嫌ですじゃねえ」
「君に今の僕の気持ち分かる? ずっと好きで追いかけてきた陶芸作家がこんな……信じられない! 顔見てやんないと気が済まないでしょ」
「ツッキーどうどう!」
「チッ、めんどくせーな。てめーも逃げんじゃねーぞ。行って顔拝んでやる」
「望むところだよ。君なんかどうせ、どうせ……くっ」
「ツッキーが影山本人と作品の間で引き裂かれそう! 今日はこのくらいにしとく!?」
「お、おう、山口そっち任せた! またイベントで!」
「うん。またね、ポロン!」

 通話退出のSEを口頭で言い残し、ボイスチャットから「ツッキー」が去っていった。残されたのは日向と影山の二人だ。

「影山」
「なんだよ」
「お前背ぇ高くね……」
「あ? ああ、動画見てんのか」

 ごくたまにだが、上背のあるすらりとした男が画面の中を横切っていく。首から上は映っていないが、細身だがしっかり筋肉がついた、なんとも羨ましい体形がうかがわれる。リスナーたちも動画を見ているらしく、うわついたコメントが勢いよく流れている。

「身長何センチですかこの野郎」
「181。いや、2か?」
「クッ……!!」
「なんだよ」
「イエ……。あの、楽しみにしてるから、マジで。イベントで会おうな」
「……おう」
「でもその前にランク戦また行こ」
「いいけど」
「……うん。いやもー、お前に対する情緒が分からん。自分が分からん」
「じゃあな」
「いえあ、お、おやすみ! おやす……落ちたよアイツ」

 躊躇なく通話を切られ、突然、部屋に静寂が戻ってくる。
 何かと事件が勃発した一日だったが、ひとまず影山と会う約束を取りつけられたので大きな前進だ。

「どんなヤツなんだろうな、影山……」

 ぽつりと日向がつぶやくと、「素直に好きって言えたらいいね」と棒読みの音声が語りかけてきて、日向はつい「うん」とうなずいてしまったのだった。

 

 

引用元:

kgymと同伴出勤します【ワルバリ】(日向のゲームチャンネル)

ランク戦(月島蛍)