intermission II

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You●uberパラレル(2)日影

・ゲーム配信者パラレル、日影
・<[]:>=配信のチャット欄です


2)


 日向翔陽のその日の配信はさながら、小学生男子の昼休みと化していた。

<[****]:なんでうじうじしてんの? とっとと誘えばいいじゃん!>

 今日は週末の土曜日、「日向のゲームチャンネル」は昼過ぎに配信を開始し、最近発売された農耕系アクションゲームでバーチャル田植えに興じていた。農耕ターンの奥深さもさることながら、戦闘も爽快感があって引き込まれる。夢中になっているうちにふと気付けば時刻は18時を回っており、日向は慌てて今後の予定を告知した。19時になったらこちらを中断し、日向のメインゲーム、「ワールドバレーボール」のランク戦に移行する旨を告げると、チャット欄はすぐに最近ホットな人物の話題に流れていった。
 コメントにあった「誘えばいいじゃん」とは、件の男「kgym」こと影山をランク戦のボイスチャットに誘えばいいではないか、という意味だ。ワルバリにはチーム結成システムがあって、ランダムマッチングではなく、あらかじめ固定パーティーを組んだうえでランク戦に挑むことができる。通話ソフトも加えて使用すれば当然連係はスムーズになり、日向のような「野良」プレイヤーより格段に勝率が高くなる。
 せっかくあの影山とゲーム外でつながったのだ。あちらももうボイスチャットツールを使えるのだし、ひとこと「俺とVCつないでランク戦行かない?」と誘えば、世界は大きく拓けるのではないかと日向も思った。けれど、相手はあの影山である。不遜にも日向を下手くそと言って憚らぬ。お前となんか組むわけねーだろクソボゲと断られる気がしてならないし、だいたい日向のほうだって、なんであんな奴と組まなきゃならんのだと言いたい気持ちはある。そうだ、あの日、日向は激怒した。かの邪智暴虐の王様は、あくまで敵として打ちのめさねばならぬ、憎きライバルだったのだ。

「でもほら、俺が影山を倒すとこ見てスカッとしたいっしょ? 固定パ組んじゃうとそれがなくなるよね!」
<[****]:誘えよ>
「聞けよ!」
<[****]:仲よくなりたいんじゃないの?>
<[****]:影山と組めたら勝率爆上がりしそう>
「いやまあ、それは絶対そうなんスよねえ……」
<[****]:日向が影山にアタックしてフられるの見たいからダメ元で凸って!>
「本音それ!? なんで俺のリスナーはこんなに俺に厳しいの!?」
<[****]:影山のイケボもう一回聞きたいので日向さん散ってください>
「それ通話凸ってこと!? ナチュラルにハードル上げてくるじゃん! ねえねえ、みんな影山の声に持ってかれ過ぎじゃない……。まあ、まあ多少? イケボと言えなくもなかったけど? スマホのイヤホンだったっぽかったし、音質マジック説ないかな? あると思うな!」
<[****]:いやそういうレベルじゃなかった>
<[****]:むしろ超高音質なマイク買ってほしいまである>
「さ……さようで……」

 こと影山の声に関しては異様に足並みの揃うコメントに促され、日向は眉間にシワを寄せつつも、ヘッドホン越しに聞いた影山の声を思い返す。
 ――何やってんの、お前。
 「つや」とか、「ハリ」とか、そういう表現が似合う声だった。中音域の、無理のない発声。きっと地声だろう。アニメのキャラクターにキャスティングするなら、迷わずイケメンをあてがわれるに違いない。イケボ好きの女子にはきっとたまらない声質だし、男の日向だって、けだるげにしゃべりかけられると少しどきりとしてしまった。
 いったいどうして、あんな暴言野郎の声が超絶イイのだ。世の中間違っている。

「そもそも俺、なんで影山に嫌われたんだろ? チャットの褒め方マズかった?」
<[****]:別に失礼なことは言ってなかったよ>
<[****]:あたりさわりなかったと思う>
「だよなー。じゃあ、やっぱPS?」
<[****]:下手くそって言うからにはスキル面っぽい>
<[****]:でもプレイングの相性よくね? クイックとか毎回VC繋いでんのかってレベル>
「それはね、好き勝手動いてる俺に向こうが合わせてくれてんだよね……」
<[****]:エッチじゃん>
<[****]:恋じゃん>
「エッチでも恋でもないから! ……いやエッチはマジでやめて!? うーん、俺ムラっけあるからそのせいかなあ。レシーブ下手問題?」
<[****]:それは一番ありそう>
<[****]:セッター的にはレセプの質重視すんのは分かる>
「んー、OK、分かった。ちょっと真剣に影山のこと考えよ。みんなプロファイリングするから力貸して」
<[****]:出た出た日向の攻略グセ>
<[****]:ギャルゲーで鍛えたもんな!>
「いやせめて乙女ゲーのほう言ってよ。マジな話、影山って何歳くらいだと思う?」

 リスナーの知恵を借り分析したところによれば、影山は以下のような人物と推測された。
 まず、声や話し方から、年齢は24歳の日向と同世代くらいだと思われる。ランク戦に現れる曜日や時間帯から推測すると、普通の会社勤めではなさそうで、大学生か自営業か、何かしら変則的に空き時間のできる環境にあるようだ。長期間の不在もたまにあるので、テスト勉強とか、繁忙期だとかが存在していて、それらのためにゲームから離れられる辺り、ワルバリだけに没頭しているゲーマーということもなさそうだった。

<[****]:ランク帯的にも声的にも配信やれば稼げそうなのにやらないってことは余裕のある社会人なのかも>
<[****]:普通に配信環境ないケースもあるし分からんぞ>
「配信は人それぞれだしなー。影山SNSもやってないから有名になりたい欲とかないのかも」
<[****]:今どき珍しいね>
「うん。ボイチャも全くやってなかったみたいだし」
<[****]:でも影山が日向の配信探してるときタイプ音してた。パソコン完全に疎いわけじゃなさそう>
<[****]:俺も聞こえた。少なくともレポートをスマホで書く系の学生じゃないのかなと>
「ははー、なるほどなー。あれ? ちょっと謎増してね?」
<[****]:めんどくせえな。誘えば?>
<[****]:うん。本人に聞けばいいよ>
「さじを投げるんじゃあないよリスナー諸氏」
<[****]:ランク戦まであと20分しかない! 向こうも準備あるだろうし誘うなら早く誘ったほうがいい>
「いやいやいや簡単に言うなって! あと5分悩もう!」
<[****]:力抜いてこ。第二のツッキー&グッチー目指してこ>
「あー、みんなすーぐそんなこと言うー! ツッキーグッチーってリアルに知り合いだろー? あの連係はレベル高いよなぁ」

 「ツッキーとグッチー」とは影山以外にワルバリで日向がよくマッチングするプレイヤーで、ゴールドランカーの彼らは大抵パーティーを組んでゲームに臨んでいる。たまに配信もやっていて、長い付き合いなのか、気の置けない間柄がうかがわれる。

「そーいや前ちょっとだけ絡んだことあるけど、ツッキーグッチーもなんかちょっと冷たい感じすんだよな」
<[****]:日向ハブられてんの?>
「ハブられてねえし?」
<[****]:日向は陽の者だもんね。苦手な人もいるかもね!>
「はいオブラートォ! みんな俺のことナメてっしょ?」
<[****]:ナメてないけど現実は見つめていこう>
「これから影山イったるから見てろし! かけてやんよ電話!」

 売り言葉に買い言葉とは恐ろしい。日向はさんざんためらった影山への発信ボタンを勢いで押し、ワイプ画面の中で急に冷静になって、生唾を飲んだ。かけてしまった。静まり返ったヘッドホンの中で、単調な発信音が続く。

「電話に……出んわ……」

 影山は先日アプリをインストールしたばかり、個人通話の出方が分からない可能性も極めて高い。日向の古典ギャグに震えるチャット欄を横目に、日向は自分の説得を試みた。

<[****]240円:はい、影山です。ただ今留守にしております>
「棒読み先生ェ! びっくりするからぁ! スパチャありがと!」
<[****]500円:影山、俺、実はお前のことずっと好きだったんだ>
「もしもし」
「ギャアアアアアア」

 最悪のタイミングで個人通話がつながった。通話上にはチャット読み上げの音声は流れていないのだが、日向は混乱しており、読み上げ音声を遮る奇声を発してしまった。

「……二度とかけてくんな」

 あの忘れがたい、凛と艶のある声が口を利く。

「ごめんごめん待って待って、ほんっ、待って影山! 大事な話があんの!」
「忙しいんだよこっちは」
「うえっ、あ、それはマジでごめん。今何してたの?」
「……火加減見てた」
「火? 夕飯?」
「違う。工房で今……」
「わぁああー! 影山、ごめん! ごめんこれ、この通話配信してる! 仕事? 仕事の話伏せて! ちょー伏せて!」
「お前さ……。別にいいけど」
「え、ほんと大丈夫? てか電話できる?」
「いい。外出た。なに」
「そ、そのぉ……今日ランク戦やる?」
「全部はしない。仕事終わってから少しやろうかと思ってた」
「マジで! そういうのもあんのか!」
「だから何だよ」
「か、影山くんあのー、あのーよろしければ、俺と一緒にランク戦行かない?」
「……は?」
「ってなるよなあ! なると思ったんだけどさぁ!」
「一緒にってどういう意味だよ」
「えっと、こうやってボイチャ繋いでさ、チーム結成してワルバリすんの」
「なんで?」
「なんで!? え、えっと……。なんでだろ!?」
「はあ? テメーが言いだしたんだろうが」
「それはそうなんですが! えーっと、つまり、勝率アップのために!」
「俺ランク戦ほとんど負けねえけど。」
「こンのやろ、じゃない、そうですよねえ! いや知ってるんだけど!」
「お前の勝率アップってこと?」
「まあ、そういうことになりますねえ!」
「ヤだ。めんどくせぇ」
「ちょっちょっちょ、そう言わず! お気持ちお察ししますが、でも、試しに今日だけダメ!? ゲーム中何考えてるかすっげー興味あるし、俺影山ともうちょっとしゃべってみたい!」
「……なんだそれ」
「マジマジマジ! だめ? 1時間だけ! 3戦……1戦だけでもいい! 1戦分、頼む! 一生のお願い!」
「……しつけーな」
「影山くぅん!」
「――片づけあるから。済んでから」
「え……え!? マジ!? ほんとに?」
「声でけぇよ。8時くらいまでかかる。じゃあな」
「よっしゃー! 待ってるから! あとでなー!」

 ドゥルン、と通話が切れ、静寂が訪れる。緊張の糸が切れ、画面の中で固まる日向にリスナーから大量のコメントが届く。

<[****]1000円:おめでとう>
<[****]:折れる影山可愛すぎる!!>
<[****]2000円:声マジでエロい。日向ナイス>
<[****]:ヤバい好き……>
「みんな……ありがとう……。スパチャもありがとう……俺やったよ……」
<[****]:引くほど食い下がるじゃん>
「あ、引いた? 俺もちょっとキモいかもとは思ってた……」
<[****]:意外と話通じないタイプでもなさそう>
「うん、そう。そう! なんか俺の言葉ちゃんと響いてた感じある! 素っ気ないけど、言葉がキツいタイプなだけかも」
<[****]:日向よかったなあ>
<[****]:影山仕事中っぽかったね>
「あ、うん、ね。影山働いてたんだなあ……」

 だから何、というわけではないのだが、何とも言えない世界観の広がりのようなものがあった。ゲームプレイヤーとしての影山に興味があるのはもちろんだが、声を知ってからというもの彼の存在に温度が生まれて、電話の向こうから聞こえる生活音からは、影山の奥行きのようなものを感じてしまっている。配信を切ったあとの自分と同じように、部屋の掃除をしたり、風呂に入ったり、洗濯物を干したりという暮らしが影山にもあるのだな、と思うとなぜだか分からないが不思議と胸が高鳴る。

「パチパチってさ……薪が焼けるような音がしてたよなー……。なんか板張りの床のきしむ音もしてさ、建物、広そうな感じだった。仕事場から家って近いんかな?」
<[****]1500円:勝手に影山ASMR草>
「癒やされてねーし!? スパチャありがと! 影山にあげたほうがいい!?」
<[****]:この前から発言怪しいぞ日向>
<[****]:完全に妄想女子>
「そんなことないっス……そんなことないっス……。ああーやばい今日レセプ頑張る超頑張る!」
<[****]:恋の力は偉大だな>
「ちげえって! でもなんか……影山今何やってんだろう!?」

 ランク戦開始まで残り10分、影山合流までもう1時間。その間、配信者として鍛え抜かれた日向の豊かな表現力は、無限の妄想をひたすら言語化し、リスナーをドン引きさせ続けたのだった。



「おい日向テメー! どこ行ってんだ、北行けよ北! 射線に入られるだろーが!」
「影山くんが針の穴通してトス上げてくれれば西からいけるじゃん! ファイト!」
「ファイトじゃねーよ! いっつもいっつも無茶苦茶な動きしやがって、アタッカーがそんなんで勝てると思ってんのか!?」
「いつもじゃありませーん! 影山がセッターのときだけですぅー」
「ぬん……っ」
「ぬん!? 何の音!?」

 1戦だけでもと嘆願したランク戦は、パーティーを組んだままかれこれ1時間が経っており、ラスト1戦を迎えていた。
 影山とボイスチャットを繋いでのプレイは、最初の1、2戦こそぎこちなかったものの、リスナーを「なぜそれで通じるのか」と困惑させる会話で無事軌道に乗った。セッターの影山は、日向への声での指示とチーム全体へのチャットによる指示を同時にこなしており、改めてこのゲームへの適性の高さを知らしめているところだ。
 日向の期待したとおりに、途中の相手プレイヤーとオブジェクトをぎりぎりの距離ですり抜け、指定した座標にトスが飛んでくる。不意をついた攻撃はブロックを間に合わせず、得点ラインを通過した。

「よっしゃー! ラスト勝利!」
「お前、覚えてろよ……」
「げ、影山ちょー疲れてる!」
「最後の最後あんなリスクのあるコース取らせんな」
「でもさでもさ、影山も西から速攻やれればなーって思ってたんじゃないの!?」
「お、思ってねーよ」
「あー! 絶対思ってただろそれー!」

 付き合い1週間のそれとは思えない、気の置けない会話にリスナーは戸惑いつつも喜び、日向はただただ高揚していた。やはり期待したとおりだった。今まで、自由奔放な日向の動きにどこまでもついてきたトスは、偶然もたらされていたのではなく、影山の理論と技術、それから日向のプレイに対する理解によって成り立っていた。言葉は荒い。態度も冷たい。でも、セッターとしては誰よりも信頼が置ける相手だ。

「なあ、影山」
「あんだよ」
「次ランク戦いつやる?」
「明日の夜。月曜は窯に構いっぱなしだから無理」
「窯?」
「薪窯」
「いや分からん……。てかこれ放送乗ってるけどマジ平気?」
「別にいい。自営だし」
「うん……仕事何してんの?」
「うつわ作ってる」
「えっ……え! 陶芸!?」
「ん」
「まさかの芸術家……!!」
「まさかって何だよ」
「いや、いや、えええ! すげえ、かっけー! すげー、うんびっくりするよな!? 俺のリスナーびびり倒してるぞ影山くん!」
「なんで?」
「なんでって、いや、陶芸家の知り合いとかいねーしな! マジか意外過ぎる」
「だから手が空くときはワルバリやってるけど、できねーときは全くできねー」
「へえー、それで1週間とかいきなり消えんのか」
「なんでお前が知ってんの」
「いえ別に? 影山のログイン確認とかしてねーよ?」
「きもちわりーなお前」
「おい暴言やめろ! クリーンな配信で売ってんだから! マジで変な意味じゃないって!」
「知るか。俺風呂入って寝るから。じゃあな」
「待て待て待て! 明日、明日もいっしょ行こ!! ランク戦!! え……ええー! いやマジ切れた! 切るかね普通!?」

 引き留める日向の言葉を聞かず、影山は本当に落ちてしまったようだ。ゲームからもログアウトしていることを確認し、日向はひとしきりワイプの中で身もだえたあと、ゲーム画面を切って雑談配信に切り替える。

「やー、勝ったね。ちょー勝ったね今日」

 セッターの影山とノータイムでやり取りできるのは、ワルバリのゲーム性上、大いに有利に働いた。また、今日は「ツッキー&グッチー」とのマッチも多かったので、2人パーティ2組で行くことになり、この4人でのゲームは本日負けなしだった。

<[****]:影山との謎連係ヤバすぎ>
<[****]:宇宙語で会話すな>
「なんかめっちゃ通じ合っちゃった。ごめん。初見さんには分かりづらい配信だったかも」
<[****]:古参買いかぶるのやめろ! 全然分からなかった>
「マジ? ごめん、そっか」
<[****]:面白かったよ。日向がVCでやるの新鮮だったし>
「だよなー! 俺も楽しかった!」

 これまで野良でもそれなりに勝ち越してきた日向だったが、やはり誰かと遊ぶとゲームは楽しいんだな、と初心に帰って思う。連係が命のゲームなのだから、それもそのはずだ。

<[****]:でもその前の影山の私生活妄想はキモかったよ>
「いやいやいや、プロファイリングですよみなさん! てか全然当たってなかったなあアレ。陶芸家やばくない?」
<[****]:正直惚れた>
「なー。意外過ぎる。ますます気になるなー……」
<[****]:今日音質も爆上がりしてなかった?>
「あ、そうそう! それすげー思った。最初の通話のときは普通にスマホでしゃべってたっぽかったけど、試合中はほんと音よかったよね。そんで……」
<[****]:死ぬほどイケボだったな>
「うん……」
<[****]:これもう惚れてるだろ>
「惚れてねーし!」

 頬杖をつき、ぼうっと宙を見つめる日向にチャット欄が手厳しく突っ込んでくる。日向ジャッジによれば、今日のすこぶる良好な影山の音質はスマホではなく、PCに外付けマイクをつないで拾っているような音だった。なぜそんな装備が影山にあるのかは分からないが、雑音なしでクリアに聞こえてくる影山の声は、脳髄を直接揺らすような、配信者界隈でもなかなか出会わないレベルの美声だった。

「どんなヤツなんだろ……。なんかさ、すげー背が低くあってほしい」
<[****]:日向、コンプレックスだもんな!>
「おいやめろ!」
<[****]:影山の背が低くても日向の背が伸びるわけじゃないよ!>
「分かってるよ、でも悔しいじゃん! なんだあの声!? 勝ち組すぎるだろー!」
<[****]:その美声を実質独占配信してる日向もまあまあの勝ち組>
「うんまあ……今日ピークで7000人近くいたもんな。土曜の夜とはいえ、すごいよね」
<[****]:ツイでもかなり話題になってるよ。「日向」「影山」でめちゃくちゃ呟かれてる>
「マジ? うわほんとだ。ありがてぇー。ちょ、これさぁ、明日も行けねーかな……」
<[****]:頑張れ>
<[****]:応援してるぞ! 口説け口説け>
「だよね、うーん、ちょっと頑張ってみっかな! どうなるか分からんけどトライしてみる。じゃあ、今日はそろそろ終わっとこうかな」
<[****]:おつ!>
<[****]:日向、来月の公式イベント出るってマジ?>
「あ、告知忘れてた、サンキュ! そーそー、お恥ずかしながらわたくし、『チーム人気者』でワルバリ公式配信に出演します! みんな見てね!」
<[****]500円:おめでとう>
<[****]1000円:すげー。立派になって>
「スパチャありがとー! 会場参加は抽選だけど、視聴者向けのイベントとかもあるらしいから、楽しみにしてて! じゃあまた明日! 明日は19時からランク戦やって、そのあと田んぼやるから! またねー!」
<[****]:お疲れ>
<[****]:面白かった>
<[****]:ありがとー>
「ばいばーい」

 配信を切って、日向はゲーミングチェアーで深く息をついた。今日はずいぶん濃い一日だった。影山には終始驚かされっぱなしだったが、ライフワークとしているゲームに1つやる気の素が追加されたおかげで、妙に自分の機嫌がいいのが分かる。
 影山って、どんな顔してんだろ。
 妄想を膨らませつつ、サーバーから持ってきた淹れたてのコーヒーをすすりながら、日向は本日のメールチェックに取りかかる。

「あ、運営さんだ」

 日向の「優先」メールボックスに、ワルバリの運営元から、何やらメールが届いている。タイトルには、すみ付きカッコで「依頼」とあった。

「配信イベントに、空き……」

 メールはこう続く。先日は配信イベントの件ご快諾いただきありがとうございました。さて、1件ご相談がありご連絡させていただいております。このイベントにご参加いただける方にお心当たりがあれば、ご紹介いただけないでしょうか? ご出演予定だった配信者の方1名のご都合がつかなくなり、代わって東京の会場までご来場・ご参加いただける方を探しております。
 日向の頭に浮かぶのは、もちろんあの男のことだ。
 恐らく、日向の配信者仲間の紹介を期待しているだろう依頼に対し、影山が要件を満たすかは怪しいところである。配信者ではないし、「実力者vs人気者」で戦うイベントに、「人気者」枠で呼ぶべき人物ではないような気もする。
 ――しかし。しかしだ、もしイベントに参加することになれば、日向は影山に会うことができる。どんな顔をしているのか、背格好はどうか、どんな手でろくろを回しているのだろうか。
 正直、ものすごく興味がある。
 日向はごくりと唾を呑み、ボイスチャットアプリで影山宛てのダイレクトメッセージを作成し始めた。

 

 

引用元:田植え→もじもじバレーボール【ワルバリ】(日向のゲームチャンネル)