intermission II

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謎文(ややモブ影)※not小説

・議事録 #とは
・小説ではありません
・某社会人チームの影山くん交渉のもよう


 

【都内某所、正念出版㈱会議室にて。所属バレー部来季編成に関する会議の議事録】

日時:20XX年X月X日13時~
場所:3F会議室
議題:「正念ジャンパーズ」の来季入団選手について
出席者:山田チーム統括副部長、田中主任、佐藤アナリスト、事務局(鈴木、伊藤(書記))
チームより渡辺キャプテン、小林副キャプテン(7名)

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――参加予定の7名のうち、6名が揃ったのち、3分が経過。定刻の13時を2分ほど経過して、慌てた様子で田中主任が入室。いつものパターンなので、特段、気にする者はいない。

鈴木:ではよろしくお願いいたします。監督・コーチ含めお偉方に話を上げるのはまた追い追いということで、今日は下々の者で、ざっくばらんに話していきたいと思います。渡辺キャプテンと小林副キャプテンも肩の力抜いてくださいね。
渡辺C:よろしくお願いします。
小林VC:お願いします。
山田:補強ポイントっていうのと、興行的なこととまあ両方あるんだけども、やっぱ人を集めるっていう意味ではカラい一年だったね。
田中:そうですね。ご覧のとおりですが、目標動員に届かず、昨対比もほぼ横ばいでした。

――田中主任が、白壁をスクリーンにスライド資料を投影する。心電図であれば医者が神妙な面持ちで腕時計に目をやるであろう、平坦な推移を続ける折れ線グラフに、一同からため息が漏れる。

鈴木:成績としては、昨年の7位から6位にアップで、プレーオフにも進めたんですけどね。
佐藤A:人材的にもプレーオフはチームの台所事情が反映されてしまったというか、課題の多い戦いになったと思います。
山田:誰取るのよって、やっぱセッターだよね。
佐藤A:そうですね。リベロも課題はありますが、まずはセッターですね。
渡辺C:マツさんの抜けた穴は大きいですね。
山田:選手目線で、今年の加藤どうなの?
小林VC:もちろん悪いわけではないんですけど、マツさんっていう看板がいた去年までとは立ち位置が変わって、重圧っていうんですかね。精神的にもしんどそうでした。
渡辺C:セカンドが不安定で、自分がやらなきゃっていう焦りがあったと思いますね。
山田:スーパーサブのほうが活きるタイプもいるしね。加藤はそっちかな。
田中:スカウトの候補はある程度絞ってるんですよね?
鈴木:はい。○○大学の吉田、△△大学の佐々木、●●ファイターズの斉藤。吉田と佐々木は年代別で日の丸を着けてる選手ですし、斉藤は皆さんご存じのとおり全日本を経験しているセッターです。さらなる出場機会を求めていることから、交渉可能と考えています。
山田:△△大学ってことは、佐々木くんは小林くんの後輩か。
小林VC:そうですね。軽く探ってみた感じたと、ウチの印象はよさそうでしたよ。
伊藤:さすが副キャプテン、仕事早いね。
山田:しかしまあその…なんていうのか。いまいちこう…
田中:目玉選手という感じではないですよね。
山田:そうそう。やっぱり、その年の一番の選手を取りに行くって大事だと思うんだよ。

――書記の伊藤は「そのフレーズ、野球のドラフトで聞いたことあるなあ」と思うが口に出さない。

田中:一番の選手って言ったら、ほら、春高の。活躍してた選手がいたじゃないですか。誰でしたっけ。
鈴木:影山くんですか?
田中:そうそう!烏野高校だっけ、宮城の。
山田:影山くんは声かけてあるよね?
佐藤A:はい。2年のころからうちもあちこち顔出して視察してますよ。本人と話もしています。
田中:彼どうなんですか?
伊藤:そりゃすごいですよ。春高はもちろん、ユースもバリバリに出てますし。いわゆる世代ナンバーワンって選手ですから。
佐藤A:うちのコンセプトとも合うと思いますし、まあ未知数な部分はありますが、トップリーグでもやっていけるだけのセンスはあると思いますよ。

――今度は田中主任に代わって佐藤アナリストがスライドを投影する。基礎情報と略歴、プレースタイルについてのコメントを添えたもので、プレー中の写真が2枚付いている。サーブモーション中の全身写真と、ユース選出時のものらしきバストショットだ。

山田:彼、大学と迷ってたよね、確か。
佐藤A:そうですね。1つ上の宮侑が大学選んでるのもあって、結構影響受けてるみたいですね。
渡辺C:え、本当ですか?俺は結構V寄りに考えてるって聞いてますよ。
佐藤A:ほんと?
山田:誰から?
渡辺C:うちの中村です。どういう人脈か知らないですけど、人づてに連絡取れるくらいの仲らしくて。
伊藤:はあ~、やっぱ顔が利くなあ中村選手は。
田中:いいじゃないですか影山くん。取りましょうよ、イケメンだし。

――余談だが、この田中主任はイケメン選手を好む傾向にあるため、「もしかして、そちらなのでは」と疑っている者も多い。この会議室では、山田、佐藤A、鈴木、伊藤、渡辺C、小林VCの計6名がこれに該当する。

山田:いやいや田中主任。影山くんなんて、10球団全部唾つけてるような選手だよ。実力も話題性も申し分ないけども、どうやってうちに連れてくるのよ。もっときらきらしたチームいろいろあるじゃん。
田中:うちだってきらきらしてますよ、ねえ。中村くんは俳優さんみたいな顔してるし、小林くんは今はやりの塩顔ってやつだし、渡辺キャプテンは、スパイクが上手い。

――あんまりなので、書記の伊藤はこのくだりを書き留めないことにした。渡辺キャプテンは哀しげに微笑み、「スパイク褒められるのが一番うれしいです。」と大人の対応を選択。

佐藤A:まあしかし、Vを検討してるなら、ウチも当たって砕けろじゃないですか?影山は華やかさとか人気より、バレーの環境重視でチームを選ぶ性格だと思いますよ。
渡辺C:確かに、かなりストイックなタイプだと聞いてます。
小林VC:バレー馬鹿って噂ですよね。
田中:いいじゃないですか、いいじゃないですか。うちの選手に会ってもらって、ネゴってみましょうよ。影山くんの好きな食べ物は?おいしいお店を選んで、胃袋つかんでいきましょうよ。
佐藤A:月バリによると、カレーが好きらしいです。
田中:だったら私がいいお店知ってますよ。こういうのはね、早いほうがいい。ほかに好きなものはないの?イケメンはどうかな?中村くんとか送り込みましょうよ、ねえ。
山田:雑だなあ。上手くいくといいけどねえ……。

――渡辺キャプテンは、ここで留守番を確信。


**

【会議のあとの中村選手と影山飛雄(17)のSNSでのやりとり】
※中村(俳優顔)は、キャプテンの渡辺(味のある顔立ち)と副キャプテンの小林(塩顔)から、メッセージアプリで影山と繋がり、会食の約束を取り付けるよう指示を受けている。
※中村は、大学の後輩である某選手を通じて、影山飛雄について噂を漏れ聞いている程度であったので、なぜ自分に白羽の矢が立ったのかいまひとつ理解していない。
※影山飛雄については、融通の利かない性格であると聞いていたため「面倒くさいなあ」「どうせ口説くなら女の子がいいなあ」などと考えている。

中村「影山くん初めまして、正念ジャンパーズの中村です。○○から紹介してもらったんだけど、連絡先あってるかな?」

――文面が出会い系の定型フレーズに酷似しているが、影山飛雄はこれにかまわず返信。

影山「こんばんは。」「初めまして。烏野高校の影山飛雄です。」「セッターです。」

――中村、ここで手元のスポーツドリンクを噴き出す。

中村「こんちわ。セッター知ってるよw」「俺のこと知ってる?」
影山「知ってます。インナーすごいです」「尊敬してます」

――ここで、中村の影山に対する好感度が爆上がりを記録。中村は影山飛雄を口説き落とすことに情熱を抱き始める。

中村「今度の○月○日から、東京で合宿あるって聞いてます。突然でゴメンだけど、よかったらそのときに会えないかな?」
影山「俺と中村さんがですか?」「俺は会いたいです」

――中村の手のひらに汗がにじんでいる。余談だが、中村は、合コン後女の子にラインをしてこの返事が来たら次は一発で決めることができるそうである。

影山「あ、でも合宿の途中抜けられないかもしれないです。」
中村「前の日はどう?うちのチームから、連盟や学校には話を通しておくよ」
影山「ありがとうございます。じゃあ大丈夫です。」
中村「よし、決まり」「詳しいことはまた近くなったら連絡するよ。」
影山「はい。よろしくお願いします」
中村「影山カレー好き?」「チームの人から美味しい店教えてもらったんだ♪」

――さりげなく名前を呼び捨てにして距離を詰めるテクニックを披露する中村。もちろん、影山がカレー好きなことなど百も承知である。

影山「すきです」
中村「お、よかった^^」
影山「すげー好きです。」「ありがとうございます。」「楽しみです」

――再び中村の手にじっとりと汗がにじんでいる。

※会食の日はもともと合コンの予定が入っていたが、中村はこれをキャンセル。



【都内某所、カレーが評判の創作居酒屋『ザ・ワタミス』での会話の記録】
――この会食に参加したのはジャンパーズのアウトサイドヒッター・中村と、副キャプテンでミドルブロッカーの小林、そして影山飛雄の3名である。3人が出会ってから、1時間半ほどが経過。

――時刻は午後7時半を回ったところ。影山飛雄(17)は、正念ジャンパーズの選手からの誘いを受け、合宿前日の本日から東京入り。山田副部長の根回しにより他の選手より一日早くトレーニングセンターに入れることになっており、小林は、会食後彼を無事にトレセンに送り届ける使命があるため、少しだけ時刻を気にしている。

小林「影山くん大丈夫?中村の酒間違って飲んだりしてないよな?」
影山「あ、全然、大丈夫です……」

――影山はとろんとした瞳で、隣の中村にもたれかかっている。どうやら長旅で疲れている様子である。

中村「どう?影山、うち興味ある?」
影山「あります……」
中村「そっか。今度施設見学来いよ。案内するからさ」

――甘ったるい声を発しながら影山少年の頬を撫でる同僚の男を、小林は複雑な思いで見つめている。
――もともと、影山飛雄は正念ジャンパーズに興味を持っていたとのこと。「練習時間が他と比べて長め」「海外代表チームのコーチ経験のある元選手が監督を務めている」「トスを上げてみたい選手が何人もいる」等の理由による。
――後輩・中村の甘い声と甘いマスクはあまり関係がない。

中村「小林さん、取りましょうよ影山。取れますよこれ」
小林「お前年下セッター嫌いじゃん?」
中村「そういうの今いいじゃないですか!影山はウチ絶対合いますって」
小林「まあ……影山がそれでいいならいいんだけど……」
影山「俺、頑張ります。ジャンパーズ入れたら嬉しいです」

――中村、たまらず影山をハグ。
――小林はテーブルのスマートホンを操作し、山田副部長に対して発信。

山田(電話)「小林くん?あ、例のあれ今日だっけ?」
小林「です。いけます、山田さん」
山田(電話)「いける?好感触な感じ?」
小林「っていうか完落ちです。たぶん、来てくれると思います……」
山田(電話)「本当に!?」

――山田副部長の後ろで田中主任が小躍り。
――もののはずみで転んだ田中主任は、右太もも肉離れおよび半月板損傷で、全治6か月の重傷。開幕には間に合わなかったとのこと。