intermission II

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原作軸未来(モブ影+侑影)

・モブ影+侑影のカオスss、R-15(品性の都合)






 抱き締められたら突き飛ばさなければ。押しつけられた愛は断らなければ。
 そんなもん受け入れとったら、お前は逃げられへんようになるんやないの。

「影山先輩……」

 居眠りをして帰りそびれていた俺の存在に気付いていないらしい。みんなの帰ったロッカーの隅のベンチで、2つ年下の男が影山飛雄の体を背後から掻き抱いて、苦しげに名を呼んだ。
 その名を口にすれば、目の前の苦しみが甘く溶かされていくと信じているみたいに。俺はあきれる。なあそれ、あほちゃう、って思う。

「ごめんなさい。少しだけ……少しだけこうさせて」

 影山の通う大学の後輩だ。バカみたいに背ぇデカくて、ポジションはアウトサイドヒッター。あんま上手ないけど2メートルあるし呼んどくかみたいな感じだと思う。案の定、アンダーカテのレベルの違いに圧倒されて、選抜合宿2日目にして傷心中。そういえば、この男は、春高にも出ていなかった気がする。高校のときは、タッパの有利で打てば決まって、大学に入ってからは、お上手な影山先輩に気持ちよく打たしてもらって、自分が下手だと気付いていなかった可能性すらある。
 そういうん、ようないと思うねん。俺ヘタクソとやるん嫌やから。自分がヘタクソやって気付ける親切なトスをたくさん上げたった。結果これ。ヘンタイや。その体格差で抱きすくめられたら飛雄くん逃げられへんて。

「……あと3日もあんだろ」
「分かってます」
「無駄にはならねえから、ぜんぶ」
「はい……」

 あー、優しいなあ。ザ・飛雄くん。甘すぎ。そいつ、元から下心ありまくりやろ絶対。どさまぎで胸触って、裾の下から手ぇ入れて。影山飛雄先輩と懇ろになるチャンス窺っとったに決まっとる。耳元でハアハア言うて、勃起してんとちゃうか?

「影山先輩……」

 ロッカー越しに影山の表情を見遣れば、いつもの無表情のまま、後輩の腕にじっと抱かれている。その静かさが、後輩の目には都合よく、慈愛と映ったかもしれない。それが男を狂わせるのだと影山は知らない。
 最初に出会ったとき以来、影山は日に日に洗練されていき、研ぎ澄まされた顔つきになっていった。今では、影山飛雄というセッターを形容するとき「美しい」は常套句の一つになりつつあり、それは少なからず見てくれを含めた感傷的な言葉選びだと影山以外の誰もが知っていた。見目がよく、どことなく品がある。鋭い眼差しは迂闊にゆるんで、心を許されている錯覚に陥れ、愚かな男を勘違いさせ続ける。

「……落ち着いたか?」
「はい、すみません……」

 ようやく影山の体を離した男は、それでも往生際悪く両手で影山の頬に触れ、首筋をたどり、両肩を抱いた。

「きれいです」
「は?」
「影山先輩はきれいです。プレーも、心も」

 男の手は、影山の足に触れていた。影山はぱちぱちと瞬きを繰り返し、意図を問い返すように男を見つめている。

「……宿泊棟戻るぞ」
「はい」

 結局、鈍感な影山は男の後輩然とした顔の下でとぐろを巻く色欲に気付くことなく、体育館をあとにした。



「ツラ貸せや」

 合宿所の大浴場からの帰り道、進路を塞ぐようにスリッパで壁を蹴った俺に、男は目を丸くし、後ずさった。練習中、人当たりはよくしていたつもりだが、プレーに込めた悪意は正しく伝わっていたらしい。繊細で敏感で、凡庸だと思う。影山や、自分とは違うところだ。

「宮さん」
「ゴキゲンやなお前」

 革張りのソファーの置かれた休憩スペースに追いやって、あごをしゃくれば、向き合って腰を下ろした男はびくんと肩を揺らした。

「な、なんですか急に」
「見とったで、今日、飛雄くんに言い寄ってたん」
「え……」
「傷心な後輩ヅラで飛雄くん誑かすとかコッスいわ」
「何の話だか……」
「俺おったから、あんとき。なあ、お前、ワンチャン飛雄くん落とせる思とるやろ」
「……俺、そんなつもりないですよ、普通に彼女いるし」
「アホ抜かせ。お前ゲイやろ」
「本当です、そんな言うなら見せましょうか、ラインとか」
「彼女おって影山先輩のカラダあんなヤラしい触り方しとったんならそっちのが問題や。片手間に手ェ出す相手ちゃうぞアホンダラ」
「どうして宮さんにそんなこと言われなきゃいけないんですか」

 ひざの上で拳を握りしめていた男はそう言って立ち上がり、俺を見下ろしてこうわめいた。

「おかしいのは俺じゃない。影山先輩のほうだ! 影山先輩だけなんですよ、あんな変な気持ちになるの!! あの人見てると、勝手に……」

 勝手に、なんだ。濁っていく思考に目を細める。

「失礼します!」

 男が言わなかった言葉を、宮侑は知っている。影山飛雄を見ていると、勝手に欲情が湧き上がる。押し倒して、めちゃくちゃに汚して、それでも汚せない彼と溺れてしまいたいと思う。



 部屋に戻ると、ベッドに腰掛けた影山が、難しい顔でスマホを眺めていた。

「後輩から?」
「え? なんで分かったんですか」
「勘。なんて?」
「えっと……」

 無遠慮に隣に腰を下ろすと、影山は少しだけ画面を隠す仕草をしながら、「べつに」と首を振った。あいまいな答えに苛立ち、手首をつかんで覗き込めば、だらだらと長い吹き出しが目に入ってきた。すみません、影山さんのこと、今日したことは――影山が画面をオフにしたので、全貌は読み取れなかった。

「勝手に見ないでくださ……」
「飛雄くんそのうちアイツに掘られんで」
「……は?」
「あいつ飛雄くんとセックスしたいんやって。さっき言うてた」
「宮さん頭いかれたんですか?」
「いかれてへんわ。今日めちゃめちゃ体触られてたやん、足、こないして。分かるやん大体」
「宮さっ……」

 仰け反る影山の肩を捕まえ、抱き寄せて唇を重ねる。間髪入れずに舌を捻じ込み、ぬるりと舌を絡めれば、影山の体から簡単に力が抜け、ベッドの上へと倒れ込んだ。いやらしく染まった目元に、知らず、舌なめずりをする。

「俺が、迂闊な君に、『イヤイヤ』のしかた教えたるわ」

 唇を塞いでハーフパンツに手を掛けると、押さえつけた喉の奥から悲鳴のような声が漏れた。
 そんなんカンチガイするわ、なあ飛雄くん。いつかヤられるわ。
 そんなら、あんな下手くそより、絶対俺がええやろ。