intermission II

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原作軸未来(侑影)

・ノリはR-15くらい
・うすぐらい



 切れ目ない雨の気配は薄いカーテン一枚で隠れ、部屋はぼんやりと明るかった。侑はベッドの上であぐらをかき、窓枠にもたれて、ベッドに横たわるチームメイトの寝顔を眺める。涙の痕が残る目元には、僅かに隈があらわれていた。

「飛雄くん、寝とってもほんまに別嬪さん」

 ――だから惚れた、というわけではないけれど。まっすぐな心根に似合った顔立ちだと思う。
 昨夜は、泣き顔ばかり見た。彼には悪いことをしたと思う。どれくらい記憶があるだろうか、彼は終始、意識が朦朧としていたようだった。

「ん……」

 うすい瞼がひくりとよれたあと、かすかな雨音に震えるように、睫毛がゆっくりと持ち上がった。

「宮さん……?」
「おはよ」
「はざす……ここ、どこすか」
「ん?……俺んち」

 壁に凭れたまま目尻でなんとなく笑う侑に、彼はまばたきを数回し、何かに気付いた様子でふっと口を噤んだ。薄暗い窓の影にいるのに、影山の頬は白々していて、裸の上半身も相まって、美術室の彫刻を思い出させる。

「起き上がらんほうがええよ。あちこち痛むやろうから」
「……俺」
「頭、痛ない? 酒で潰したから、二日酔いなっとるかもしれん」
「宮、さん……」
「飛雄くん案外酒強いな。手こずったわ。おかげで帰り着いたとき俺も結構酔うてたし」
「宮さ――」
「俺、昨日の夜、飛雄くんにひどいことしてん」

 影山の呼吸が止まった。

「俺、君を抱いたんよ」

 細く美しい眉が、ぐにゃりと歪むのを見て、侑は哀しくなって笑った。

「そんな、……泣きそうな顔、せんで」

 選んで傷つけたのは自分なのに、影山が傷つくのはつらかった。もっと、トスのこととか。昨日見た試合のこととか、遠征先での食事のこととか、きれいなものだけを分け合って、彼と一緒にいたかった。あとほんの少し、彼がどこかの誰かのようであったなら、侑はきっと影山を手に入れようとせずに済んだだろうに。

「飛雄くんが正体なくしてたんは知ってた。腕、全然チカラ入っとらんかったし、キスしたら泣くし。いっぱい泣くし。なんなん、飛雄くん、初めてやってんな。ごめんな」

 片膝に額をうずめると、涙腺がしくしく痛んで、泣きだしてしまいそうだった。

「春高で飛雄くんとやった試合、楽しかったわ。ほんま言うとな、俺あんときちょびっと飛雄くんのこと舐めてたんよ。言うて飛雄くん無名やったし、烏野もそうで。けど、人生振り返ってもあんな楽しい試合、ほかにいくつもあれへん。飛雄くんが、俺とおんなしくらいバレー好きで、アホで、むちゃくちゃ、特別で、俺はあんとき、そういう子に『出会ってしもうた』て思た」

 気付けば、しんどそうに体を起こした影山が、ベッドの上を這って、窓のそばに来ていた。半月のように顔の半分が真白く照らされ、半分は、心許ない闇に呑まれていた。

「どうしてですか」
「……ハハ、声ひどいな、飛雄くん」
「俺がじゃまになったんですか」
「――なるわけないやろ」
「じゃあなんで!」
「好きになり過ぎて、もう俺、無理や」
「み、や……」
「君ときれいなままでおるん、無理や。飛雄くんが俺のこと、むっちゃ好きでおってくれてんのは知ってる。友達みたいに他愛もない話するんも楽しい。でも、嫌や、足りん。俺と特別になってよ、飛雄くん。俺がお前やないとあかんのと同じくらい、お前も俺以外、ぜんぶ要らんくなったらええんや」

 乱暴に肩をつかむと、驚いた彼が、侑の腕を握ってのけぞった。ゆらゆら揺れる瞳から、喉元をたどり、手元に視線を這わせる。きれいな形の爪の、セッターの手が、侑の手首に掛かっている。

「……俺、人の好きになり方が分からへん」
「おれは」

 両手で、頬を包まれた。

「勝手に、体ん中に、宮さん入ってきて」
「……うん」
「なんでそんなことすんのか、分かんなくて、……でも、いいです、もう分かったから」
「なに言うてるん」
「さっき宮さんが言ったとおり、俺、宮さんが好きです。宮さん、いつもやること全部めちゃくちゃで、訳分かんなくて、でも、バレーすごくて、悔しいけど、すげえって思う。宮さんになら、どんな話もできる気がします。うまく話せねえけど、宮さんはなんか適当に分かってくれるし」
「……なんや、適当て。ちゃんと分かっとる」
「アレ、やりてえなら、どうぞ。――酒はやめてください。宮さん怖いから」

 頭の整理がつかないまま、侑はおもむろに手を伸ばし、影山の体を抱き締めた。

「飛雄くん、俺、君とおりたい」
「……はい。いいっすよ」
「おりたいて言うてよ」
「すげぇ一緒にいたいです」
「――サービスしすぎや」

 裸の肩に鼻先をうずめ、侑は影山の体を掻き抱く。同じくらいの力で抱き返されて、侑は「好き」を繰り返した。

「もっかいしたい」
「……今、は、ちょっと」

 しんどそうに影山は漏らすが、ベッドに押し倒して唇を重ねると、困ったように体の力を抜いた。その一瞬一瞬の心の動きが、たまらなく愛おしいと思う。

「やさしくしてください……なるべく」
「得意や、それ」
「……嘘つけ」

 もっともっと、本当はいくらだって優しくできるのだと、教えてやりたい。